百人一首82番は、道因法師の歌です。このページでは、意味・現代語訳、品詞分解、表現技法、作者と背景、決まり字と覚え方をまとめています。
意味 / 語句 / 品詞分解 / 表現技法 / 作者 / 背景 / 決まり字 / 確認問題
【百人一首】第82首の歌
| 和歌 | 思ひわび さても命は あるものを 憂きにたへぬは 涙なりけり |
|---|---|
| ひらがな | おもひわび さてもいのちは あるものを うきにたへぬは なみだなりけり |
| 読み方 | おもいわび さてもいのちわ あるものを うきにたえぬわ なみだなりけり |
| 歌番号 | 82 |
| 歌集 | 千載集 |
| 部立 | 恋三・818番 |
| 作者・歌人 | 道因法師 |
| 色札 | 青札 |
意味・現代語訳
つらさをがまんしきれずに、こぼれ落ちてしまうのは涙のほうだったのだなあ。恋に悩みぬいて心はすっかり弱ったけれど、命のほうはまだ尽きることなく、この身に宿りつづけているのに。
ひとことで言うと、恋に苦しんでも命は持ちこたえるのに、涙だけはこらえきれないと嘆く歌。
語句の意味
| 語句 | 意味 |
|---|---|
| 思ひわぶ | 恋がかなわずに悩み疲れ、心がくじけてしまうこと。この歌では、冷たい相手をずっと思い続けて苦しむようす。 |
| さても | それでも。そんなにつらい状態であっても、という気持ちを表す。 |
| ものを | 「〜のに」と、前と後ろを逆の関係でつなぐ言葉。 |
| 憂き | つらいこと。形容詞「憂し」の連体形で、下に「こと」を補って読む。 |
| 堪ふ | がまんする、持ちこたえること。「たへぬ」で、がまんできない。 |
品詞分解
上の句から順に、1語ずつ分けています。
| 語 | 品詞 | 意味・働き |
|---|---|---|
| 思ひわび | 動詞(バ行上二段活用「思ひわぶ」・連用形) | 思い悩んで気力を失う。連用形で下に続く |
| さても | 副詞 | それでも |
| 命 | 名詞 | |
| は | 係助詞 | 取り立て(〜は) |
| ある | 動詞(ラ行変格活用「あり」・連体形) | |
| ものを | 接続助詞 | 逆接(〜のに) |
| 憂き | 形容詞(ク活用「憂し」・連体形) | つらいこと。下に「こと」を補う |
| に | 格助詞 | 対象(〜に) |
| たへ | 動詞(ハ行下二段活用「たふ」・未然形) | がまんする |
| ぬ | 助動詞「ず」(連体形・打消) | 〜ない。下に「こと・もの」を補う |
| は | 係助詞 | 取り立て(〜は) |
| 涙 | 名詞 | |
| なり | 助動詞「なり」(連用形・断定) | 〜である |
| けり | 助動詞「けり」(終止形・詠嘆) | 〜だなあ |
文法のポイント
- 「あるものを」の「ものを」は逆接の接続助詞で、「(命は)あるのに」と訳します。上の句の「命」と下の句の「涙」を、逆の関係でつなぐ働きをしています。
- 「たへぬ」の「ぬ」は打消の助動詞「ず」の連体形です。下に係助詞「は」が続くので連体形とわかります。完了の「ぬ」なら連体形は「ぬる」になるので区別できます。
- 「涙なりけり」の「けり」は詠嘆の助動詞です。和歌の中の「けり」は、今あらためて気づいた感動を表し、「〜だなあ」と訳すことが多いです。
表現技法
| 技法 | 箇所 | 説明 |
|---|---|---|
| 句切れ | – | 句切れなし。「ものを」を逆接の接続助詞と考えると、上の句と下の句はひと続きの文になります。 |
作者:道因法師
道因法師(どういんほうし)。一般には「道因(どういん)」とも呼ばれます。
1090年〜没年未詳。俗名(出家する前の名)は藤原敦頼です。朝廷に仕えて従五位上・右馬助となり、1172年、八十代になってから出家しました。歌人として目立って活動するのは晩年で、俊恵が開いた歌人の集まり「歌林苑」に加わり、住吉社や広田社の歌合を自分から呼びかけて開くなど、熱心に歌に打ちこみました。1182年ごろまでに亡くなったとされます。千載集には20首が選ばれています。
歌の背景と鑑賞
千載集では「題しらず」とされ、よまれた事情はわかっていません。恋の部(恋三)に収められているので、恋の苦しみをよんだ歌として読まれています。この歌では、「命」と「涙」を比べているところに注目しましょう。死にそうなほど思い悩んでも、命はどうにか続いています。ところが涙のほうはがまんがきかず、あふれ出てしまいます。体と心の反応の違いを取り出すことで、苦しみの深さを伝えています。作者の道因は歌への思いがたいへん強い人で、鴨長明の『無名抄』には、よい歌がよめるよう毎月住吉神社に参ったことが記されています。また、亡くなったあと、千載集を編んでいた藤原俊成の夢の中に姿を見せ、自分の歌が多く採られたことを泣いて喜んだので、心を動かされた俊成が歌を2首増やしたとも伝えられています。
出典:千載集(恋三・818番)。詞書:題しらず(よまれた事情は示されていない)
決まり字・覚え方
決まり字
| 上の句 | 下の句 |
|---|---|
| おもいわび さてもいのちは あるものを | うきにたへぬは なみたなりけり |
決まり字は「おも」の二字決まりです。「お」で始まる札はほかに6枚あり、2文字目の「も」で決まります。
ほかの札の決まり字は、百人一首の決まり字一覧(一字決まりから大山札まで)で確認できます。
覚え方
重い浮き(沈んじゃうね・・・)
語呂合わせは暗記のための言葉で、歌の意味とは関係ありません。
確認問題
「答えを見る」を押すと答えが開きます。
問1 上の句「思ひわび さても命は あるものを」に続く下の句は?
答えを見る
憂きにたへぬは 涙なりけり
問2 この歌の決まり字は?
答えを見る
おも(二字決まり)
問3 この歌の作者は?
答えを見る
道因法師
問4 「憂きにたへぬは」の「ぬ」について、助動詞の意味と活用形を答え、完了の「ぬ」と区別できる理由を説明しなさい。
答えを見る
打消の助動詞「ず」の連体形です。「たへ」は未然形と連用形が同じ形ですが、下に係助詞「は」が続くので連体形と考えます。完了の「ぬ」の連体形は「ぬる」なので、この「ぬ」は打消と判断します。
前後の歌・関連ページ
- 前の歌:81番 ほととぎす 鳴きつる方を ながむれば
- 次の歌:83番 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る
- 同じ色札の20首:青札の一覧と練習
- 同じテーマの歌:恋の歌の一覧
- 百人一首100首の意味・現代語訳の一覧
- 百人一首の覚え方
- 百人一首の練習問題・テスト
参考にした資料
- 千載和歌集 巻第十三 恋三(歌番号付き古典本文)
- 全日本かるた協会「一日一首」思ひわびさても命は
- 千人万首(やまとうた)道因
- 小倉山荘「ちょっと差がつく百人一首講座」82番
- マナペディア 百人一首82 現代語訳と解説(品詞分解)
- 百人一首で始める古文書講座(82)(新日本古典文学大系・岩波古語辞典・歌枕歌ことば辞典の引用あり)
- 百人一首の意味と解説(programming-cafe)82番
- コトバンク「道因」(日本人名大辞典)
確認日:2026年9月30日。誤りにお気づきの場合はお問い合わせからお知らせください。