百人一首56番は、和泉式部の歌です。このページでは、意味・現代語訳、品詞分解、表現技法、作者と背景、決まり字と覚え方をまとめています。
意味 / 語句 / 品詞分解 / 表現技法 / 作者 / 背景 / 決まり字 / 確認問題
【百人一首】第56首の歌
| 和歌 | あらざらむ この世のほかの 思ひ出に 今ひとたびの 逢ふこともがな |
|---|---|
| ひらがな | あらざらむ このよのほかの おもひでに いまひとたびの あふこともがな |
| 読み方 | あらざらん このよのほかの おもいでに いまひとたびの おうこともがな |
| 歌番号 | 56 |
| 歌集 | 後拾遺集 |
| 部立 | 恋三・763番 |
| 作者・歌人 | 和泉式部 |
| 色札 | 橙札(オレンジ札) |
意味・現代語訳
(私は)まもなくこの世を去るでしょう。死んだ後の世界で思い返すために、(せめて)もう一度だけ(あなたに)逢えたらよいのに。
ひとことで言うと、病の床で死を予感した作者が、あの世への思い出にもう一度だけ恋人に逢いたいと願う歌。
語句の意味
| 語句 | 意味 |
|---|---|
| あらざらむ | 生きていないだろう。「あり」はここでは「この世に生きている」の意味で、自分の死を予感している。 |
| この世のほか | この世(現世)の外の世界。つまり、あの世・来世のこと。 |
| 今ひとたび | もう一度。「今」は「さらに・もう」という意味の副詞。 |
| 逢ふ | 恋人として会うこと。男女が会って一夜を共にする意味で使われることが多い。 |
品詞分解
上の句から順に、1語ずつ分けています。
| 語 | 品詞 | 意味・働き |
|---|---|---|
| あら | 動詞(ラ行変格活用・未然形) | 基本形「あり」。この世に生きている |
| ざら | 助動詞「ず」(未然形・打消) | 〜ない。助動詞「む」に接続する |
| む | 助動詞「む」(連体形・推量) | 〜だろう |
| この世 | 名詞 | 現世。今生きているこの世界 |
| の | 格助詞 | 連体修飾格(〜の) |
| ほか | 名詞 | 外。それ以外の所 |
| の | 格助詞 | 連体修飾格(〜の) |
| 思ひ出 | 名詞 | |
| に | 格助詞 | 資格・目的(〜として) |
| 今 | 副詞 | さらに、もう |
| ひとたび | 名詞 | 一度 |
| の | 格助詞 | 連体修飾格(〜の) |
| 逢ふ | 動詞(ハ行四段活用・連体形) | 下の「こと」を修飾する |
| こと | 名詞 | |
| もがな | 終助詞 | 願望(〜があればなあ) |
文法のポイント
- 「あらざらむ」は、ラ変動詞「あり」の未然形+打消の助動詞「ず」の未然形「ざら」+推量の助動詞「む」の連体形です。「ず」は下に助動詞が続くとき「ざら・ざり」の形を使います。
- 「逢ふこともがな」の「もがな」は願望の終助詞で、「〜があればなあ」と訳します。実現が難しいことを強く願う気持ちが込められています。
- 「あらざらむ」の「む」は、終止形と連体形が同じ形です。この歌では下へ続く連体形と見て、句切れなしとするのが一般的です(初句切れと見る説もあります)。訳では分かりやすさのために文を区切っています。
表現技法
| 技法 | 箇所 | 説明 |
|---|---|---|
| 句切れ | – | 句切れなし(「あらざらむ」で切れる初句切れと見る説もあります)。 |
作者:和泉式部
和泉式部(いずみしきぶ)。
生没年不詳(976年ごろの生まれとする説などがあります)。平安時代中期の歌人で、大江雅致の娘です。和泉守の橘道貞と結婚し、夫が和泉守だったことから「和泉式部」と呼ばれました。娘の小式部内侍(百人一首60番の作者)も歌人です。その後、為尊親王、続いてその弟の敦道親王と恋愛し、敦道親王とのいきさつをつづった『和泉式部日記』の作者とされます。一条天皇の中宮彰子に仕え、のちに藤原保昌と再婚しました。勅撰和歌集に240首以上が採られ、中古三十六歌仙の一人です。
歌の背景と鑑賞
『後拾遺和歌集』恋三に収められています。詞書には「気分がいつもと違って悪かったころ、ある人のもとに贈った」とあり、重い病気にかかって死を覚悟した作者が、恋人に宛てた歌と考えられています。「私はもうすぐこの世を去るだろう」という言葉で始まり、あの世へ持っていく思い出として、もう一度だけ逢いたいというひたむきな願いを、まっすぐによんでいます。細かな技巧よりも、気持ちをそのまま言葉にした力強さが特色です。詞書は相手を「人」とだけ書いており、誰に贈ったのかは分かっていません。解説の中には敦道親王とするものもありますが、詞書からは特定できません。
出典:後拾遺集(恋三・763番)。詞書:「心地例ならず侍りける頃、人のもとにつかはしける」とあり、病気で具合が悪かったころ、ある人のもとに贈った歌
決まり字・覚え方
決まり字
| 上の句 | 下の句 |
|---|---|
| あらざらん このよのほかの おもいでに | いまひとたひの あふこともかな |
決まり字は「あらざ」の三字決まりです。同じ「あら」で始まる札に、69番「嵐吹く」(決まり字「あらし」)があります。3文字目の「ざ」で区別しましょう。
ほかの札の決まり字は、百人一首の決まり字一覧(一字決まりから大山札まで)で確認できます。
覚え方
あらざたこ(字札下段に「たこ」と並ぶ)(「なげきイカ」とセット)
語呂合わせは暗記のための言葉で、歌の意味とは関係ありません。
確認問題
「答えを見る」を押すと答えが開きます。
問1 上の句「あらざらむ この世のほかの 思ひ出に」に続く下の句は?
答えを見る
今ひとたびの 逢ふこともがな
問2 この歌の決まり字は?
答えを見る
あらざ(三字決まり)
問3 この歌の作者は?
答えを見る
和泉式部
問4 「あらざらむ」を品詞分解し、それぞれの活用形を答えなさい。
答えを見る
「あら」=ラ変動詞「あり」の未然形、「ざら」=打消の助動詞「ず」の未然形、「む」=推量の助動詞「む」の連体形です。「生きていないだろう」という意味になります。
前後の歌・関連ページ
- 前の歌:55番 滝の音は 絶えて久しく なりぬれど
- 次の歌:57番 めぐりあひて 見しやそれとも わかぬ間に
- 同じ色札の20首:橙札(オレンジ札)の一覧と練習
- 同じテーマの歌:恋の歌の一覧
- 百人一首100首の意味・現代語訳の一覧
- 百人一首の覚え方
- 百人一首の練習問題・テスト
参考にした資料
- 国際日本文化研究センター 和歌データベース「後拾遺集」
- 小倉山荘「ちょっと差がつく百人一首講座」56番 和泉式部
- マナペディア「百人一首56『あらざらむこの世のほかの思ひ出にいまひとたびの逢ふこともがな』現代語訳と解説」
- 時雨の百人一首 56番(品詞分解と文法パネル)
- 百人一首で始める古文書講座「百人一首の意味と文法解説(56)」
- 千人万首「和泉式部」
- 短歌のこと「あらざらむこの世のほかの思ひ出に今ひとたびの逢ふこともがな 和泉式部」
- コトバンク「和泉式部」(日本大百科全書・世界大百科事典ほか)
- コトバンク「例ならず」(デジタル大辞泉・精選版 日本国語大辞典)
- コトバンク「此の世」(デジタル大辞泉)
- コトバンク「もがな」(デジタル大辞泉・精選版 日本国語大辞典)
確認日:2026年9月30日。誤りにお気づきの場合はお問い合わせからお知らせください。