百人一首90番は、殷富門院大輔の歌です。このページでは、意味・現代語訳、品詞分解、表現技法、作者と背景、決まり字と覚え方をまとめています。
意味 / 語句 / 品詞分解 / 表現技法 / 作者 / 背景 / 決まり字 / 確認問題
【百人一首】第90首の歌
| 和歌 | 見せばやな 雄島のあまの 袖だにも ぬれにぞぬれし 色はかはらず |
|---|---|
| ひらがな | みせばやな をじまのあまの そでだにも ぬれにぞぬれし いろはかはらず |
| 読み方 | みせばやな おじまのあまの そでだにも ぬれにぞぬれし いろわかわらず |
| 歌番号 | 90 |
| 歌集 | 千載集 |
| 部立 | 恋四・886番 |
| 作者・歌人 | 殷富門院大輔 |
| 色札 | 橙札(オレンジ札) |
意味・現代語訳
雄島で漁をする海人の袖ですら、ずぶぬれになっても色はもとのままだ。(それなのに泣き続けた)私の袖は、(血の涙で)色まで変わった。この袖を(あの人に)見せてやりたい。
ひとことで言うと、つらい恋に泣き続け、血の涙で色の変わった袖を相手に見せたいと訴えた歌。
語句の意味
| 語句 | 意味 |
|---|---|
| 見せばや | 見せたい。「ばや」は、自分がそうしたいと願う気持ちを表す。 |
| 雄島(をじま) | 陸奥国(今の宮城県)の松島湾に浮かぶ島の一つ。海人や袖とともに詠まれることが多い歌枕。 |
| あま | 海で漁をして暮らす人。男女のどちらにも使う。 |
| だに | 「〜ですら」と軽いものを挙げて、もっと程度の重いものを思わせる助詞。 |
| ぬれにぞぬれし | 同じ動詞を「に」でつないで重ね、ひどくぬれたことを強めた言い方。 |
| 色はかはらず | 海人の袖の色は変わらない。作者の袖は血の涙に染まった、という対比が裏にある。 |
品詞分解
上の句から順に、1語ずつ分けています。
| 語 | 品詞 | 意味・働き |
|---|---|---|
| 見せ | 動詞(サ行下二段活用「見す」・未然形) | 見せる |
| ばや | 終助詞 | 自己の願望(〜したい)。未然形に付く |
| な | 終助詞 | 詠嘆(〜なあ)。ここで文が切れる(初句切れ) |
| 雄島 | 名詞 | 「をじま」と読む。松島の島の一つ |
| の | 格助詞 | 連体修飾格(〜の) |
| あま | 名詞 | 海人。漁をする人 |
| の | 格助詞 | 連体修飾格(〜の) |
| 袖 | 名詞 | |
| だに | 副助詞 | 類推(〜でさえ) |
| も | 係助詞 | 強調 |
| ぬれ | 動詞(ラ行下二段活用「ぬる」・連用形) | ぬれる |
| に | 格助詞 | 同じ動詞の連用形の間に入り、意味を強める |
| ぞ | 係助詞 | 強意。結びは連体形 |
| ぬれ | 動詞(ラ行下二段活用「ぬる」・連用形) | ぬれる |
| し | 助動詞「き」(連体形・過去) | 〜た。「ぞ」の結び。ここで文が切れる(四句切れ) |
| 色 | 名詞 | |
| は | 係助詞 | 取り立て(〜は) |
| かはら | 動詞(ラ行四段活用「かはる」・未然形) | 変わる |
| ず | 助動詞「ず」(終止形・打消) | 〜ない |
文法のポイント
- 「見せばや」の「ばや」は、未然形に付いて「〜したい」と自分の願いを表す終助詞です。相手に「〜してほしい」と願う終助詞「なむ」とは意味が違うので、区別して覚えましょう。
- 「ぬれにぞぬれし」では、係助詞「ぞ」の結びとして、過去の助動詞「き」が連体形「し」になっています。係り結びで文が終わるので、第四句の後が句切れになります。
- 「袖だにも」の「だに」は類推の副助詞で、「〜でさえ」と訳します。いつも海水にぬれている海人の袖を挙げて、それでも色は変わらないのだから、私の袖はそれ以上だと言外に示しています。
表現技法
| 技法 | 箇所 | 説明 |
|---|---|---|
| 句切れ | – | 初句切れ・四句切れ。終助詞「な」で終わる「見せばやな」と、係り結びで結ばれた「ぬれにぞぬれし」の後で、それぞれ文が切れます。 |
| 本歌取り | 一首全体 | 源重之の「松島や雄島の磯にあさりせしあまの袖こそかくはぬれしか」(『後拾遺集』)をもとにしています。「雄島」「あま」「袖」「ぬれ」という言葉を受けつぎ、袖の色まで変わったと詠むことで、もとの歌よりも強い嘆きにしています。 |
作者:殷富門院大輔
殷富門院大輔(いんぷもんいんのたいふ)。
生没年未詳。1131年ごろに生まれ、1200年ごろに亡くなったと考えられています。藤原信成の娘です。後白河天皇の第一皇女・亮子内親王(のちの殷富門院)に女房として仕えたため、この名で呼ばれます。俊恵が主宰した歌人の集まり「歌林苑」の一員で、西行・藤原定家・源頼政らとも交流がありました。「千首大輔」というあだ名は、詠んだ歌の数が群を抜いて多かったことから付いたものです。1192年に殷富門院が出家した際、大輔も尼になったとされます。家集に『殷富門院大輔集』があります。
歌の背景と鑑賞
『千載集』の詞書には、歌合で恋を題として詠んだ歌とあります。この歌は、源重之の「松島や雄島の磯にあさりせしあまの袖こそかくはぬれしか」(『後拾遺集』)をもとにした本歌取りの歌です。重之は、つらい恋の涙でぬれた自分の袖ほどぬれているのは、雄島で漁をする海人の袖くらいだと詠みました。大輔はそこから一歩進めて、海人の袖も色まで変わりはしないが、自分の袖はすっかり色を変えた、と詠んでいます。色が変わったのは、泣き続けて涙が尽き、血の涙が流れたためと解釈されています。血の涙という言い方は、中国の『韓非子』にある、宝玉の原石を認められなかった男の話などに由来し、悲しみがきわまったことを表します。まず「見せばやな」と強く言い切り、その理由を後から明かしていく組み立てに注目しましょう。
出典:千載集(恋四・886番)。詞書:「歌合し侍りける時、恋の歌とてよめる」とあり、歌合で恋を題として詠んだ歌(どの歌合かはわかっていない)
決まり字・覚え方
決まり字
| 上の句 | 下の句 |
|---|---|
| みせばやな おじまのあまの そでだにも | ぬれにそぬれし いろはかはらす |
決まり字は「みせ」の二字決まりです。「み」で始まる札はほかに4枚あり、2文字目の「せ」で決まります。
覚え方
いろはがるたはみせにある
語呂合わせは暗記のための言葉で、歌の意味とは関係ありません。
確認問題
「答えを見る」を押すと答えが開きます。
問1 上の句「見せばやな 雄島のあまの 袖だにも」に続く下の句は?
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ぬれにぞぬれし 色はかはらず
問2 この歌の決まり字は?
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みせ(二字決まり)
問3 この歌の作者は?
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殷富門院大輔
問4 「ぬれにぞぬれし」の「し」を文法的に説明し、終止形ではなくこの形になっている理由を答えなさい。
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「し」は過去の助動詞「き」の連体形です。上にある係助詞「ぞ」の結びになっているため、終止形「き」ではなく連体形「し」になっています。
前後の歌・関連ページ
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- 同じ色札の20首:橙札(オレンジ札)の一覧と練習
- 同じテーマの歌:恋の歌の一覧
- 百人一首100首の意味・現代語訳の一覧
- 百人一首の覚え方
- 百人一首の練習問題・テスト
参考にした資料
- 国際日本文化研究センター 和歌データベース「千載集」
- 千人万首(やまとうた)殷富門院大輔
- 小倉山荘「ちょっと差がつく百人一首講座」90番
- 百人一首で始める古文書講座(90)(新日本古典文学大系・歌枕歌ことば辞典の引用あり)
- マナペディア 百人一首90 現代語訳と解説
- 二階の窓から 百人一首090 品詞分解
- 百人一首90番(programming-cafe)
- コトバンク「殷富門院大輔」(世界大百科事典・日本人名大辞典)
確認日:2026年9月30日。誤りにお気づきの場合はお問い合わせからお知らせください。