かくとだに えやはいぶきの さしも草 さしも知らじな 燃ゆる思ひを|意味・現代語訳と品詞分解(百人一首51番・藤原実方)

百人一首51番は、藤原実方の歌です。このページでは、意味・現代語訳、品詞分解、表現技法、作者と背景、決まり字と覚え方をまとめています。

意味 / 語句 / 品詞分解 / 表現技法 / 作者 / 背景 / 決まり字 / 確認問題

目次

【百人一首】第51首の歌

和歌 かくとだに えやはいぶきの さしも草 さしも知らじな 燃ゆる思ひを
ひらがな かくとだに えやはいぶきの さしもぐさ さしもしらじな もゆるおもひを
読み方 かくとだに えやわいぶきの さしもぐさ さしもしらじな もゆるおもいを
歌番号 51
歌集 後拾遺集
部立 恋一・612番
作者・歌人 藤原実方
色札 桃札(ピンク札)

意味・現代語訳

「あなたが恋しくてならない」と、ほんのひと言だけでも伝えたい。だが、それさえどうして口にできようか。伊吹山のさしも草(もぐさ)に火がついたように胸の奥で燃えているこの思いが、これほど激しいとは、まさか(あなたも)気づいてはいないだろうね。

ひとことで言うと、言い出せずにいる激しい恋心を、伊吹山のもぐさが燃えるさまに重ねて打ち明けた歌。

語句の意味

語句 意味
かくとだに 「こういう気持ちでいる、ということだけでも」。「だに」は最低限の願いを示す。
えやは 副詞「え」と反語の「やは」の組み合わせ。「どうして〜できようか、いやできない」となる。
いぶき 伊吹山。「言ふ」と音を重ねた掛詞で、さしも草の産地として知られていた。
さしも草 よもぎの別名。葉を乾かしてお灸のもぐさを作ったため、火や「燃ゆる」と結びつく。
さしも 「それほどまで」。下の「知らじ」と組んで「それほどとは知らないだろう」となる。
思ひ 恋心。「ひ」の音に「火」を重ねて、燃える炎のイメージを生んでいる。

品詞分解

上の句から順に、1語ずつ分けています。

語 品詞 意味・働き
かく 副詞 このように
と 格助詞 引用
だに 副助詞 最小限(せめて〜だけでも)
え 副詞 下の反語と呼応して不可能を表す
やは 係助詞 反語。結びは連体形「いふ」で、「いぶき」の中に掛けてある
いぶき 名詞 地名「伊吹」。「言ふ」を掛ける掛詞
の 格助詞 連体修飾格(〜の)
さしも草 名詞 ヨモギ。もぐさの材料
さしも 副詞 それほど。副詞「さ」に「しも」が付いて一語になったもの
知ら 動詞(ラ行四段活用「知る」・未然形)
じ 助動詞「じ」(終止形・打消推量) 〜ないだろう
な 終助詞 詠嘆・念押し(〜なあ、〜ね)
燃ゆる 動詞(ヤ行下二段活用「燃ゆ」・連体形)
思ひ 名詞 「ひ」に「火」を掛ける
を 格助詞 対象(〜を)。倒置で「知らじな」にかかる

文法のポイント

  • 「えやは〜いふ」は、副詞「え」と反語の係助詞「やは」が組み合わさって、「どうして言えようか、いや言えない」という不可能を表します。「やは」の結びの連体形「いふ」は、「いぶき」の中に掛詞として含まれています。
  • 「知らじな」の「じ」は打消推量の助動詞「じ」の終止形で、「〜ないだろう」と訳します。終助詞「な」で文がいったん終わるので、この歌は四句切れになります。
  • 「燃ゆる思ひを」は、本来は「さしも知らじな」の前にくる内容を後ろに回した倒置です。最後に「思ひを」を置くことで、燃える思いが強く印象に残ります。

表現技法

技法 箇所 説明
句切れ – 四句切れ。「知らじな」で文がいったん終わり、結句「燃ゆる思ひを」が倒置の形で後ろに置かれています。
掛詞 いぶき・思ひ 「いぶき」に動詞「言ふ」と地名の「伊吹」を、「思ひ」の「ひ」に「火」を重ねています。
序詞 伊吹のさしも草 同じ音をくり返して、次の「さしも(それほど)」を導く序詞です。「さしも草」だけを序詞とする説明もあります。
縁語 「さしも草」「燃ゆる」「(思)ひ」 もぐさの材料になるさしも草と、「燃ゆる」「火」は関係の深い言葉で、縁語になっています。
倒置 さしも知らじな/燃ゆる思ひを ふつうの語順なら「燃ゆる思ひをさしも知らじな」となるところを、入れ替えています。

作者:藤原実方

藤原実方(ふじわらのさねかた)。百人一首での作者名は「藤原実方朝臣(ふじわらのさねかたあそん)」です。

生年不詳〜998年。小一条左大臣藤原師尹の孫で、父の定時が早くに亡くなったため、叔父の藤原済時の養子となりました。左近中将まで進み、995年に陸奥守となって東北へ下り、998年にその地で亡くなりました。宮中で藤原行成と争ったため一条天皇に「歌枕を見てまいれ」と命じられ、陸奥へ送られたという話が伝えられていますが、本当の理由はわかっていません。はなやかな恋の話題にも事欠かない貴公子で、家集『実方朝臣集』には、清少納言と恋仲だったことをうかがわせる歌のやりとりが収められています。中古三十六歌仙の一人です。

歌の背景と鑑賞

後拾遺集の詞書には「女にはじめてつかはしける」とあり、心ひかれた女性へ、最初に届けた一首です。一首の中に、掛詞・序詞・縁語・倒置といった技巧がいくつも重ねられています。「えやはいふ(言えない)」の「いふ」に山の名「伊吹」を重ね、その伊吹山の名産であるさしも草(もぐさ)から、音の同じ「さしも」を引き出しています。さらに、もぐさが燃えるイメージを「燃ゆる思ひ」の「火」につなげています。言葉のしかけを重ねながら、まだ打ち明けられない恋心の熱さを伝えるしくみになっています。なお、この「伊吹」は近江と美濃の境の伊吹山とする説のほか、下野国(今の栃木県)の山とする説もあります。

出典:後拾遺集(恋一・612番)。詞書:女性に初めて贈った歌。

決まり字・覚え方

決まり字

上の句 下の句
かくとだに えやわいぶきの さしもぐさ さしもしらしな もゆるおもひを

決まり字は「かく」の二字決まりです。同じ「か」で始まる札に、6番「かささぎの」(決まり字「かさ」)、48番「風をいたみ」(決まり字「かぜを」)、98番「風そよぐ」(決まり字「かぜそ」)があります。2文字目の「く」で区別しましょう。

ほかの札の決まり字は、百人一首の決まり字一覧(一字決まりから大山札まで)で確認できます。

覚え方

かく刺し(意味なし:レバ刺しの仲間?)

語呂合わせは暗記のための言葉で、歌の意味とは関係ありません。

確認問題

「答えを見る」を押すと答えが開きます。

問1 上の句「かくとだに えやはいぶきの さしも草」に続く下の句は?

答えを見る

さしも知らじな 燃ゆる思ひを

問2 この歌の決まり字は?

答えを見る

かく(二字決まり)

問3 この歌の作者は?

答えを見る

藤原実方(百人一首での作者名は「藤原実方朝臣」)

問4 「えやはいぶきの」の「いぶき」に掛けられている二つの意味を答えなさい。

答えを見る

動詞「言ふ」と、地名の「伊吹(伊吹山)」です。「えやは言ふ」で「どうして言えようか、いや言えない」という意味になり、同時に次の「さしも草」の産地である伊吹山へとつながっています。

前後の歌・関連ページ

参考にした資料

確認日:2026年9月30日。誤りにお気づきの場合はお問い合わせからお知らせください。

  • URLをコピーしました!
目次