百人一首76番は、法性寺入道前関白太政大臣の歌です。このページでは、意味・現代語訳、品詞分解、表現技法、作者と背景、決まり字と覚え方をまとめています。
意味 / 語句 / 品詞分解 / 表現技法 / 作者 / 背景 / 決まり字 / 確認問題
【百人一首】第76首の歌
| 和歌 | わたの原 漕ぎ出でて見れば ひさかたの 雲居にまがふ 沖つ白波 |
|---|---|
| ひらがな | わたのはら こぎいでてみれば ひさかたの くもゐにまがふ おきつしらなみ |
| 読み方 | わたのはら こぎいでてみれば ひさかたの くもいにまごう おきつしらなみ |
| 歌番号 | 76 |
| 歌集 | 詞花集 |
| 部立 | 雑下・382番 |
| 作者・歌人 | 法性寺入道前関白太政大臣 |
| 色札 | 青札 |
意味・現代語訳
果てしない海原へ舟をこぎ出して、遠くを見わたしてみた。すると、はるか沖では、白い波が、空に浮かぶ雲と見まちがえるほどに連なっている。
ひとことで言うと、漕ぎ出した舟の上から、雲とも波ともつかない遠い沖をながめた、広々とした景色の歌。
語句の意味
| 語句 | 意味 |
|---|---|
| わたの原 | 見わたすかぎり広がる海。「わた」は海の古い呼び名で、それに広がりを表す「原」が付いた言葉。 |
| ひさかたの | 「雲居」を導く枕詞。「天」「月」「光」など、空に関係する言葉にかかる。 |
| 雲居(くもゐ) | もとは雲のある所、つまり空のこと。ここでは雲そのものとみる説と、空とみる説がある。 |
| まがふ | 入りまじって、どちらがどちらかわからなくなること。ここでは白波と雲の見わけにくさを表す。 |
| 沖つ白波 | 沖に立つ白い波。「つ」は「の」と同じ働きをする古い格助詞。 |
品詞分解
上の句から順に、1語ずつ分けています。
| 語 | 品詞 | 意味・働き |
|---|---|---|
| わたの原 | 名詞 | 大海原 |
| 漕ぎ出で | 動詞(ダ行下二段活用「漕ぎ出づ」・連用形) | 漕いで出る |
| て | 接続助詞 | 〜て(単純な接続) |
| 見れ | 動詞(マ行上一段活用「見る」・已然形) | |
| ば | 接続助詞 | 順接の確定条件(〜すると) |
| ひさかた | 名詞 | 「ひさかたの」で枕詞 |
| の | 格助詞 | 連体修飾格(〜の) |
| 雲居 | 名詞 | 「くもゐ」と読む。雲(空とする説もある) |
| に | 格助詞 | 比べる相手(〜と) |
| まがふ | 動詞(ハ行四段活用「まがふ」・連体形) | 見分けにくくなる。下の「沖つ白波」を修飾する |
| 沖 | 名詞 | |
| つ | 格助詞 | 連体修飾格(〜の)。上代の古い言い方 |
| 白波 | 名詞 | 体言止め |
文法のポイント
- 「見れば」は上一段活用「見る」の已然形「見れ」に接続助詞「ば」が付いた形で、順接の確定条件(〜すると)を表します。上一段活用の動詞は「見る・着る・似る・煮る・射る・居る」など数が少ないので、覚えておきましょう。
- 「沖つ白波」の「つ」は、「の」と同じ意味を表す古い格助詞です。12番「天つ風」の「つ」も同じ働きです。完了の助動詞「つ」と見まちがえないよう注意しましょう。
- 「まがふ」は連体形で、下の「沖つ白波」を修飾しています。四段活用なので終止形と同じ形ですが、下に名詞が続いていることから連体形と判断できます。
表現技法
| 技法 | 箇所 | 説明 |
|---|---|---|
| 句切れ | – | 句切れなし。漕ぎ出して見わたした目が、最後の「沖つ白波」まで途切れずに届くように続いています。 |
| 枕詞 | ひさかたの | 「ひさかたの」は「雲居」を導く枕詞です。空に関係する語にかかり、天空の広がりを感じさせます。 |
| 体言止め | 沖つ白波 | 名詞「白波」で歌を終え、見わたした海と空の広がりを余韻として残しています。 |
作者:法性寺入道前関白太政大臣
法性寺入道前関白太政大臣(ほっしょうじにゅうどうさきのかんぱくだいじょうだいじん)。一般には「藤原忠通(ふじわらのただみち)」とも呼ばれます。
1097年〜1164年。平安時代後期の公卿です。関白藤原忠実の長男で、1121年に関白となり、鳥羽・崇徳・近衛・後白河の四代の天皇のもとで摂政・関白を務めました。父の忠実や弟の頼長と対立し、1156年の保元の乱では後白河天皇の側について勝ちました。1162年に出家し、法性寺殿とも呼ばれました。和歌や漢詩を好み、家集『田多民治集』を残しました。書の名手でもあり、その書きぶりは法性寺流と呼ばれて受け継がれました。
歌の背景と鑑賞
詞花集の詞書によると、崇徳天皇の在位中に「海上遠望」という題でよまれた歌で、保延元年(1135年)の内裏歌合での作とされています。題のとおり、視線は舟の上からはるか沖へと向かいます。遠くで立つ白い波頭が、空に浮かぶ雲とひと続きになって見える、広々とした眺めです。11番の小野篁の歌も「わたの原」で始まりますが、流罪となって島へ向かう心細さがにじむあちらに対して、この歌には晴れ晴れとした広がりがあります。やがて1156年の保元の乱では、忠通は後白河天皇の側に立ち、この題を出した崇徳上皇(77番の作者)と敵味方に分かれることになりました。
出典:詞花集(雑下・382番)。詞書:崇徳天皇がまだ位にあったころ、「海上遠望(海の上から遠くを眺める)」という題で歌をよませたときによんだ歌。
決まり字・覚え方
決まり字
| 上の句 | 下の句 |
|---|---|
| わたのはらこぎいでてみれば ひさかたの | くもゐにまかふ おきつしらなみ |
決まり字は「わたのはらこ」の六字決まりです。同じ「わたのはら」で始まる札に、11番「わたの原」(決まり字「わたのはらや」)があります。6文字目の「こ」で区別しましょう。
ほかの札の決まり字は、百人一首の決まり字一覧(一字決まりから大山札まで)で確認できます。
覚え方
わたのはら 子と妻(つま)(字札では「つま」が並んでいる)
語呂合わせは暗記のための言葉で、歌の意味とは関係ありません。
確認問題
「答えを見る」を押すと答えが開きます。
問1 上の句「わたの原 漕ぎ出でて見れば ひさかたの」に続く下の句は?
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雲居にまがふ 沖つ白波
問2 この歌の決まり字は?
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わたのはらこ(六字決まり)
問3 この歌の作者は?
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法性寺入道前関白太政大臣
問4 「ひさかたの」はどの語を導く枕詞か。また「沖つ白波」の「つ」の意味を答えなさい。
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「ひさかたの」は「雲居」を導く枕詞です。「沖つ白波」の「つ」は、「の」と同じ意味の古い格助詞で、「沖の白波」という意味になります。
前後の歌・関連ページ
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- 同じ色札の20首:青札の一覧と練習
- 百人一首100首の意味・現代語訳の一覧
- 百人一首の覚え方
- 百人一首の練習問題・テスト
参考にした資料
- 国際日本文化研究センター 和歌データベース「詞花集」
- 詞花和歌集 巻第十 雑下(歌番号付き古典本文)
- 小倉山荘「ちょっと差がつく百人一首講座」76番
- 百人一首で始める古文書講座(76)(新日本古典文学大系・岩波古語辞典・歌枕歌ことば辞典の引用あり)
- マナペディア 百人一首76 現代語訳と解説
- 二階の窓から 百人一首076 品詞分解と解説
- 短歌のこと わたの原こぎ出でてみれば久方の
- 千人万首(やまとうた)藤原忠通
- コトバンク「藤原忠通」(デジタル大辞泉・日本国語大辞典)
確認日:2026年9月30日。誤りにお気づきの場合はお問い合わせからお知らせください。