百人一首60番は、小式部内侍の歌です。このページでは、意味・現代語訳、品詞分解、表現技法、作者と背景、決まり字と覚え方をまとめています。
意味 / 語句 / 品詞分解 / 表現技法 / 作者 / 背景 / 決まり字 / 確認問題
【百人一首】第60首の歌
| 和歌 | 大江山 いく野の道の 遠ければ まだふみもみず 天の橋立 |
|---|---|
| ひらがな | おほえやま いくののみちの とほければ まだふみもみず あまのはしだて |
| 読み方 | おおえやま いくののみちの とおければ まだふみもみず あまのはしだて |
| 歌番号 | 60 |
| 歌集 | 金葉集 |
| 部立 | 雑上・550番 |
| 作者・歌人 | 小式部内侍 |
| 色札 | 黄札 |
意味・現代語訳
天の橋立は、大江山を過ぎ、生野の里を行き、そのさらに先にある遠い土地だ。だから私はまだ、その地を踏んでさえいない。(そこに暮らす)母の便りも、一通として目にしてはいない。
ひとことで言うと、母に代作を頼んだのではとからかう定頼に、掛詞を使った即興の歌できっぱり答えた歌。
語句の意味
| 語句 | 意味 |
|---|---|
| 大江山(おおえやま) | 山城国と丹波国の境の山で、今の京都市西京区大枝あたり。丹後の大江山とみる説もある。 |
| いく野(いくの) | 丹波国の地名「生野」で、今の京都府福知山市。「行く野」の意味も重ねている。 |
| ふみ | 「踏み(その地に足を踏み入れる)」と「文(手紙)」の二つの意味をかけた言葉。 |
| 天の橋立(あまのはしだて) | 丹後国(今の京都府宮津市)の名所。海の中に細長く延びた砂州に松が続く景色で知られる。 |
品詞分解
上の句から順に、1語ずつ分けています。
| 語 | 品詞 | 意味・働き |
|---|---|---|
| 大江山 | 名詞 | 地名 |
| いく野 | 名詞 | 地名「生野」。「行く」をかける |
| の | 格助詞 | 連体修飾格(〜の) |
| 道 | 名詞 | |
| の | 格助詞 | 主格(〜が) |
| 遠けれ | 形容詞(ク活用・已然形) | 基本形「遠し」 |
| ば | 接続助詞 | 已然形+ば。原因・理由(〜ので) |
| まだ | 副詞 | |
| ふみ | 動詞(マ行四段活用「踏む」・連用形)/名詞「文」 | 掛詞。「踏み」と「文(手紙)」 |
| も | 係助詞 | 並べて強める(〜も) |
| み | 動詞(マ行上一段活用・未然形) | 基本形「見る」 |
| ず | 助動詞「ず」(終止形・打消) | ここで文が切れる |
| 天の橋立 | 名詞 | 地名 |
文法のポイント
- 「道の遠ければ」の「の」は主格の格助詞で、「道が遠いので」と訳します。すぐ前の「いく野の道」の「の」は連体修飾格なので、同じ「の」でも働きが違う点に注意しましょう。
- 「遠ければ」は形容詞「遠し」の已然形に「ば」が付いた形で、原因・理由(〜ので)を表します。「已然形+ば」は確定条件、「未然形+ば」は仮定条件と覚えておきましょう。
- 「ふみ」を「文」と取れば名詞、「踏み」と取れば四段動詞「踏む」の連用形になります。掛詞では、一つの語に二つの品詞や意味が重なることがあります。
表現技法
| 技法 | 箇所 | 説明 |
|---|---|---|
| 句切れ | – | 四句切れ。打消の助動詞「ず」の終止形でいったん切れ、最後に「天の橋立」を置いています。 |
| 掛詞 | いく野/ふみ | 「いく野」に地名の「生野」と「行く」を、「ふみ」に「踏み」と「文(手紙)」をかけています。「行ったこともない」と「手紙も見ていない」を同時に言っています。 |
| 縁語 | 「ふみ(踏み)」「橋立」 | 橋は踏んで渡るものなので、「踏み」は「天の橋立」の「橋」の縁語になっています。 |
| 体言止め | 天の橋立 | 名詞「天の橋立」で歌を終え、遠く離れた名所の名を印象に残しています。 |
作者:小式部内侍
小式部内侍(こしきぶのないし)。
生年未詳〜1025年。父は橘道貞、母は56番の作者・和泉式部です。1009年ごろ、母とともに一条天皇の中宮彰子に仕えたとされます。若くして歌の名手として知られた一方、あれほどの歌をよめるのは母が手を貸しているからだ、という陰口がささやかれたとも伝えられています。藤原教通との間に子をもうけ、のちに藤原公成の子を出産したのち、1025年に若くして亡くなりました。勅撰集に入った歌は数首にとどまります。
歌の背景と鑑賞
『金葉集』の長い詞書に、この歌が生まれた場面が記されています。母の和泉式部が夫の藤原保昌とともに丹後国にいたころ、都で歌合が開かれ、作者はその詠み手に選ばれました。そこへ64番の作者・藤原定頼がやって来て、丹後の母へ使いは出したか、使いはまだ戻らないのかとからかいます。母に歌を作ってもらうのだろう、とほのめかしたのです。作者は立ち去ろうとする定頼を引き止め、その場でこの歌を返しました。「丹後へ出向いたこともなければ、母の便りも届いていない」という答えを掛詞に包んで、代作のうわさを打ち消したのです。この話は『俊頼髄脳』や『十訓抄』をはじめ、さまざまな書物に書きとめられて、広く知られるようになりました。
出典:金葉集(雑上・550番)。詞書:母の和泉式部が夫の藤原保昌とともに丹後国にいたころ、都で歌合が開かれ、作者はその詠み手に選ばれた。藤原定頼が作者の部屋に来て「歌はどうなさいます。丹後へ使いは出しましたか。使いはまだ戻りませんか」などとからかって立ち去ろうとしたので、引き止めてよんだ歌。
決まり字・覚え方
決まり字
| 上の句 | 下の句 |
|---|---|
| おおえやま いくののみちの とおければ | またふみもみす あまのはしたて |
決まり字は「おおえ」の三字決まりです。同じ「おお」で始まる札に、44番「逢ふことの」(決まり字「おおこ」)、95番「おほけなく」(決まり字「おおけ」)があります。3文字目の「え」で区別しましょう。
ほかの札の決まり字は、百人一首の決まり字一覧(一字決まりから大山札まで)で確認できます。
覚え方
また 応援(おおえん)練習
語呂合わせは暗記のための言葉で、歌の意味とは関係ありません。
確認問題
「答えを見る」を押すと答えが開きます。
問1 上の句「大江山 いく野の道の 遠ければ」に続く下の句は?
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まだふみもみず 天の橋立
問2 この歌の決まり字は?
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おおえ(三字決まり)
問3 この歌の作者は?
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小式部内侍
問4 「まだふみもみず」の「ふみ」にかけられている二つの意味を答えなさい。
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「踏み(その土地に足を踏み入れる)」と「文(手紙)」です。一語に二つの意味を持たせることで、「天の橋立を訪れていない」ことと「丹後の母から便りを受け取っていない」ことを、まとめて言い表しています。
前後の歌・関連ページ
- 前の歌:59番 やすらはで 寝なましものを さ夜更けて
- 次の歌:61番 いにしへの 奈良の都の 八重桜
- 同じ色札の20首:黄札(黄色)の一覧と練習
- 百人一首100首の意味・現代語訳の一覧
- 百人一首の覚え方
- 百人一首の練習問題・テスト
参考にした資料
- 国際日本文化研究センター 和歌データベース「金葉集_二度本」「金葉集_三奏本」
- 金葉和歌集 巻第九 雑上(歌番号付き古典本文)
- 小倉山荘「ちょっと差がつく百人一首講座」60番
- 百人一首で始める古文書講座(60)(新日本古典文学大系・歌枕歌ことば辞典の引用あり)
- マナペディア 百人一首60 現代語訳と解説
- 二階の窓から 百人一首060 品詞分解と解説
- 百人一首 60番(programming-cafe)
- コトバンク「小式部内侍」(デジタル大辞泉・日本国語大辞典・日本大百科全書・ブリタニカほか)
- コトバンク「生野」(デジタル大辞泉・日本歴史地名大系)
確認日:2026年9月30日。誤りにお気づきの場合はお問い合わせからお知らせください。