百人一首91番は、後京極摂政前太政大臣の歌です。このページでは、意味・現代語訳、品詞分解、表現技法、作者と背景、決まり字と覚え方をまとめています。
意味 / 語句 / 品詞分解 / 表現技法 / 作者 / 背景 / 決まり字 / 確認問題
【百人一首】第91首の歌
| 和歌 | きりぎりす 鳴くや霜夜の さむしろに 衣かたしき ひとりかも寝む |
|---|---|
| ひらがな | きりぎりす なくやしもよの さむしろに ころもかたしき ひとりかもねむ |
| 読み方 | きりぎりす なくやしもよの さむしろに ころもかたしき ひとりかもねん |
| 歌番号 | 91 |
| 歌集 | 新古今集 |
| 部立 | 秋下・518番 |
| 作者・歌人 | 後京極摂政前太政大臣 |
| 色札 | 青札 |
意味・現代語訳
こおろぎの鳴く声が聞こえる。霜が置くほど冷えこむ夜、寒さのしみるむしろの上で、着ている衣の袖を片方だけ下に敷き、(共寝の相手もなく)ひとりで寝るのであろうか。
ひとことで言うと、こおろぎの鳴く晩秋の霜夜に、ひとりで寝るわびしさを詠んだ歌。
語句の意味
| 語句 | 意味 |
|---|---|
| きりぎりす | 古くはこおろぎをこう呼んだ。この歌では、霜の降りる夜に聞こえるその鳴き声が、独り寝のわびしさを深めている。 |
| 霜夜(しもよ) | 霜が降りるほど冷えこんだ夜。晩秋の寒さを感じさせる言葉。 |
| さむしろ | わらなどで編んだ敷物「むしろ」に「さ」が付いた語。ここでは「寒し」の意味も重なる。 |
| 衣かたしき | 袖を片方だけ敷いて横になること。そばに恋しい人がいない、ひとりきりの寝床を思わせる。 |
| ひとりかも寝む | ひとりで寝ることになるのか、と自分に問いかける言い方。 |
品詞分解
上の句から順に、1語ずつ分けています。
| 語 | 品詞 | 意味・働き |
|---|---|---|
| きりぎりす | 名詞 | 今のこおろぎ |
| 鳴く | 動詞(カ行四段活用「鳴く」・連体形) | 下の「霜夜」を修飾する |
| や | 間投助詞 | 詠嘆。語調を整える働きもある |
| 霜夜 | 名詞 | 霜の降りる寒い夜 |
| の | 格助詞 | 連体修飾格(〜の) |
| さむしろ | 名詞 | 「さ」は接頭語。「寒し」との掛詞 |
| に | 格助詞 | 場所(〜に) |
| 衣 | 名詞 | 「ころも」と読む |
| かたしき | 動詞(カ行四段活用「かたしく」・連用形) | 片方の袖だけを下に敷く。独り寝をいう |
| ひとり | 名詞 | |
| か | 係助詞 | 疑問。結びは連体形 |
| も | 係助詞 | 強意 |
| 寝 | 動詞(ナ行下二段活用「寝(ぬ)」・未然形) | 寝る |
| む | 助動詞「む」(連体形・推量) | 〜だろう。「か」の結び |
文法のポイント
- 「ひとりかも寝む」では、疑問の係助詞「か」の結びとして、推量の助動詞「む」が連体形になっています。「も」は意味を強める係助詞で、全体で「ひとり寝をするのだろうか」という、推量に疑問を重ねた意味になります。
- 「鳴くや霜夜の」の「鳴く」は連体形で、下の「霜夜」を修飾しています。「や」は詠嘆の間投助詞なので、係り結びは起こらず、ここで文が切れることもありません。
- 「寝」はナ行下二段活用の動詞「寝(ぬ)」の未然形です。終止形が一字の動詞なので、「ね・ね・ぬ・ぬる・ぬれ・ねよ」と活用をまとめて覚えておきましょう。
表現技法
| 技法 | 箇所 | 説明 |
|---|---|---|
| 句切れ | – | 句切れなし。初句から結句まで一続きで、最後の「寝む」で文が終わります。 |
| 掛詞 | さむしろ | 敷物の「さむしろ(狭筵)」と、形容詞「寒し」をかけています。霜夜の寒さと、独り寝のさびしさが重なります。 |
| 本歌取り | 「さむしろに衣かたしき」「ひとりかも寝む」 | 『古今集』の「さむしろに衣かたしき今宵もや我を待つらむ宇治の橋姫」と、3番の柿本人麻呂の歌の結句「ひとりかも寝む」をふまえています。 |
作者:後京極摂政前太政大臣
後京極摂政前太政大臣(ごきょうごくせっしょうさきのだいじょうだいじん)。一般には「九条良経(くじょうよしつね)」とも呼ばれます。
1169年〜1206年。藤原良経とも呼ばれます。関白九条兼実の次男で、76番の作者・藤原忠通の孫、95番の作者・慈円のおいにあたります。1202年に摂政、1204年には太政大臣となり、朝廷の政治を担いました。しかし1206年、父の兼実よりも先に、38歳の若さで思いがけず世を去りました。若いころから和歌にすぐれ、藤原俊成に学びました。自邸で催した『六百番歌合』は、叔父の慈円や藤原定家らが加わった大規模な歌合です。『新古今和歌集』の編集にかかわり、その仮名序(仮名で書かれた序文)を書いています。書道にもすぐれ、その書風は「後京極様」として伝わりました。
歌の背景と鑑賞
『新古今集』の詞書には「百首歌たてまつりし時」とあり、1200年に後鳥羽院が歌人たちに詠ませた百首歌(正治初度百首)の一首と考えられています。作者は摂政・太政大臣にまでなった高い身分の貴族ですが、この歌では、晩秋の寒い夜にひとりで寝るわびしさを詠んでいます。昔は恋人どうしが衣を敷き交わして寝たので、「衣かたしき」には共に寝る人がいないさびしさがこめられています。『古今集』の「さむしろに衣かたしき…」と、3番の柿本人麻呂の歌の「ひとりかも寝む」という言葉を組み合わせた本歌取りの歌で、どちらの古歌も独り寝を詠んでいます。こおろぎの声、霜の降りる夜、冷たい敷物と、耳と肌で感じる寒さを重ねていく組み立てに注目しましょう。
出典:新古今集(秋下・518番)。詞書:「百首歌たてまつりし時」とあり、後鳥羽院に百首歌を献上したときに詠んだ歌(1200年の正治初度百首とされる)
決まり字・覚え方
決まり字
| 上の句 | 下の句 |
|---|---|
| きりぎりす なくやしもよの さむしろに | ころもかたしき ひとりかもねむ |
決まり字は「きり」の二字決まりです。同じ「き」で始まる札に、15番「君がため」(決まり字「きみがためは」)、50番「君がため」(決まり字「きみがためお」)があります。2文字目の「り」で区別しましょう。
覚え方
きりぎりすの衣は固い
語呂合わせは暗記のための言葉で、歌の意味とは関係ありません。
確認問題
「答えを見る」を押すと答えが開きます。
問1 上の句「きりぎりす 鳴くや霜夜の さむしろに」に続く下の句は?
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衣かたしき ひとりかも寝む
問2 この歌の決まり字は?
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きり(二字決まり)
問3 この歌の作者は?
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後京極摂政前太政大臣
問4 「さむしろ」に使われている表現技法の名前を答え、重ねられている二つの意味を説明しなさい。
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掛詞です。わらなどで編んだ敷物の「さむしろ(狭筵)」と、形容詞「寒し」の二つの意味が重ねられています。
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- 百人一首の覚え方
- 百人一首の練習問題・テスト
参考にした資料
- 国際日本文化研究センター 和歌データベース「新古今集」
- 千人万首(やまとうた)九条良経(注釈付き)
- 千人万首(やまとうた)九条良経
- 小倉山荘「ちょっと差がつく百人一首講座」91番
- 百人一首で始める古文書講座(91)(新日本古典文学大系・岩波古語辞典・歌枕歌ことば辞典の引用あり)
- マナペディア 百人一首91 現代語訳と解説
- 二階の窓から 百人一首091 品詞分解
- 百人一首91番(programming-cafe)
- コトバンク「片敷く」「狭筵」(デジタル大辞泉)
- コトバンク「九条良経」(日本大百科全書ほか)
確認日:2026年9月30日。誤りにお気づきの場合はお問い合わせからお知らせください。